全数調査の活用方法
マーケティングリサーチにて行われる調査の一つが全数調査です。しかし、マーケティングの知識が無い方だとそもそも全数調査が何かわからない、どのように全数調査で得たデータを活用すれば良いかわからないという方も多いのではないでしょうか。そこで、ここでは全数調査とは何か、全数調査を実施する上で注意すべきことは何かなどについて解説します。
全数調査とは悉皆調査とも呼ばれ、不特定多数を対象に行う統計調査の手法のことです。私達の生活の中で、特に身近な全数調査の例が国勢調査です。この調査は「日本国民」という条件のみで、後は年齢や性別に関係なく、日本に住むすべての人を対象にしています。このように対象を広い範囲で捉え、細かい条件を指定せずに実施する調査が全数調査です。
全数調査と対の関係にあるのが標本調査です。全数調査では母集団のすべての人を対象に調査を行うのに対し、標本調査では母集団からランダムで人を選んだ上で調査を行います。ちなみに、母集団から対象を選定する方法に関しては、対象の重複を気にせずに選定する復元抽出法と重複しないように選定を行う非復元抽出法の2種類があります。
全数調査は対象が多いことからインタビューなどは難しく、アンケート形式で行われるのが一般的です。そして、集計されたデータは様々な手法で分析されます。ここでは、全数調査で得たデータの分析方法を見ていきます。
クラスター分析は、似た特徴を持つデータをグループごとに分けて分析する手法のことを言います。イメージ調査やブランドのポジショニング確認などの用途に使われることが多いです。
アソシエーション分析は、データの共通点を見つける分析手法です。「もし〜だったら〜だろう」というデータ同士の関係性を見つけることでオアターン化を行い、商品開発などの際の参考にします。
決定木分析は「もし〜だったら」という質問を繰り返すことで、様々なケースにおける回答や数値などの結果を予測する方法のことを言います。
主成分分析ではデータの次元を減らし、その名の通り主成分をもとに分析を行います。データの特徴量が多すぎて分析がスムーズにいかない場面もあるでしょう。その場合は、主成分分析を用いるとデータのグループ分けなどの作業がスムーズに行えるようになります。
全数調査をするにあたっては、まず何を母集団とするかをはっきり決めなければいけません。母集団が決まったら、許容誤差の数字について検討します。全数調査は母集団のすべての人を対象としますので、必ずしも全員が真面目に回答をするとは限りません。そこで、信頼できるデータを得るために許容誤差や信頼水準を決定します。許容誤差に関しては、正確性を確保するためにも基本的には5%前後、高くても10%以下に設定すべきでしょう。また、全数調査は調査対象が多くなりやすい分、集計作業も大掛かりになります。そのため、集計用ソフトや集計用のExcelも用意しておくと良いでしょう。
全数調査でわかることは、母集団全体の正確なデータです。標本調査ではランダムで調査対象を選んではいるものの、どうしても対象の属性に偏りが出てしまいます。それに対して、全数調査ならすべての対象に対して調査を行いますので、偏りの無い正確なデータが得られるでしょう。
全数調査のメリットは、標本調査と比べて標本による誤差を考えずに正確なデータを得られる点です。また、標本調査の場合は対象の選び方も計画の段階ではっきり決めておく必要がありますが、全数調査の場合はあくまで母集団となる対象を決めるだけで済みますので、準備の段階で必要な過程が少ない点もメリットと言えます。
全数調査のデメリットは、コストや時間がかかってしまいやすい点です。一つの会社など小さい母集団を対象とした全数調査ならまだ負担は少ないですが、規模が日本国民全員、その市区町村に住んでいる人全員など広くなると、その分対象の数が増え、集計・分析の負担が大きくなってしまいます。また、データの集計・分析作業においてもデータが膨大な分、人員コストがかかってしまうことが予測されるでしょう。加えて、集計に時間がかかる上にアンケートの発送などのコストも高額になってしまいやすいです。それだけでなく、調査の規模が大きくなるにつれて、アンケートに適当に回答する人も増えるでしょう。そのため、アンケートの設計に関しても綿密に行う必要が出てきます。
AIの技術が進歩したことによって、大量のデータの集計・分析作業は簡易化されつつあります。ただ、それでも予算や時間の面で実施するまでのハードルが高い点は変わっておらず、手間・時間・費用など様々な面でおいて負担が大きいのが全数調査のデメリットと言えるでしょう。
全数調査は母集団すべてを対象に調査を実施しますが、すべてのデータが必ずしも正しいとは限りません。そのため、標本調査と同じように許容誤差を決めた上で調査を実施する必要があります。また、前述したとおり、全数調査には時間と予算がかかります。特に時間に関しては、期限をギリギリに設定するとせっかく正確なデータが得られる全数調査を実施したのに無駄になってしまう可能性もありますので、ある程度時間に余裕を持って調査から分析までの一連の作業を行いましょう。
全数調査は正確なデータが欲しい場面で活躍します。そのため、先ほど例に挙げた国勢調査などの正確なデータに基づいた分析が求められる公的機関の統計調査に活用される場面が多いです。また、一般企業や学校においても、満足度調査など全社員・全校生徒を対象にしたアンケートを実施したい場合には全数調査を実施するのが良いでしょう。このように、正確で偏りのないデータが求められるような場面で全数調査が活用されています。
全数調査は母集団全体を対象に調査を実施するため、正確なデータが欲しい場面で役に立つ調査方法です。ただ、全数調査は母集団の数が大きくなればなるほど手間や時間がかかるというデメリットもあり、失敗のリスクも大きいです。そのため、全数調査を実施する場合は入念に計画を立て、時間に余裕を持った上で実施することが大切です。