訪問調査の活用方法

 

マーケティングでは市場の状況を把握し、どのようにすれば商品が売れるかなどの戦略を立てるための調査をします。

その際、最も大切なことは実際のユーザーがどのように商品やサービスを利用しているかを把握することです。訪問調査はユーザーの自宅や職場を訪問して直接使用環境や使用状況を把握できて効果的な調査方法だと言われています。

ここでは、その意義や効果、活用方法などについて解説します。

 

【訪問調査とは】

マーケティングにおける訪問調査は、対象者の自宅や職場などを調査員が直接訪問してデータを収集する方法の一つです。

訪問調査にはアンケート形式の調査票を用いて対象者のニーズなどを人数や割合などの数値として定量的に把握する方法と対象者の行動や生活環境を観察しつつインタビューなどによって考えやニーズを定性的に把握する訪問観察調査があります。

定量的な把握方法は、調査員が直接対象者からヒアリングして調査票を埋めていく訪問面接調査と、調査票を渡して後日回収する訪問留め置き調査の大きく2種類です。訪問面接調査では対象者の自宅や職場を訪問する機会を利用して観察やインタビューなどの訪問観察調査を併用することもあります。また、一部のアンケートについては訪問面接調査で実施し、残りは留め置くというふうに訪問面接調査と訪問留め置き調査を併用することもあります。

 

【訪問調査の分析方法】

訪問観察調査は観察やインタビューが主体なので数値データによるような分析はできません。しかし、対象者の意見を直接聞いたり、観察したりすることができます。このことによって、対象者の好みや行動、考え方を把握するので傾向分析などが可能です。
一方で、訪問面接調査や訪問留め置き調査ではアンケートによって調査結果を定量的に分析することができます。主要な分析方法は6種類です。アンケートの各選択肢を選んだ人数を割合で表す単純集計。年齢や性別などの属性ごとに選択肢を選んだ人を集計するクロス集計。時間経過に応じて調査対象の選択肢がどのように変化したかを集計していく時系列分析。対象者に自由に記述させて集計する自由記述集計。以上の4種類は単純にアンケート結果を集計する分析方法です。

高度な分析方法に決定木分析とクラスター分析があります。決定木分析は対象者の決心事項を段階的に分析して商品やサービスに対して将来を見込んだり、将来顧客となり得る購買層を推定できたりする分析方法です。この分析を行うためには、予測や判別、分類ができるようにアンケートを作らなければなりません。クラスター分析はアンケートの質問項目と質問に対する回答の類似性から回答者をグループ分けして分析します。これによって、商品やサービスのターゲットとなる顧客を具体化することなどが可能になる方法です。

 

【訪問調査をする際の準備事項】

マーケティングにおける訪問調査では調査内容を誤ると必要な結果が得られません。そのために先ず考えなければならないのはマーケティングの課題です。例えば新商品の企画を練るための調査であれば、「新商品に求められる特性」といったことが課題になります。その課題を引き出すために「既存商品の改善点把握」のように調査目的を具体化します。目的がはっきりすることによって、具体化できるのが調査で明らかにしたい事項です。例えば先の目的に対しては「現顧客の不満やニーズ」のように具体化することができます。

次が調査対象の選定です。調査対象は「年齢」「職業」「生活習慣」「勤務地」などなるべく細かく具体的にセグメントを設定します。調査対象が決まれば次は調査項目です。調査で明らかにしたい事項に基づいて必要な調査項目を洗い出して整理します。調査項目は少なすぎると目的を達成できません。多すぎると回答負荷が高まって精度が落ちます。本当に必要な事項に絞り込むのがコツです。調査項目が決まったら、設問の順番を考えて調査票に落とし込みます。調査票の完成までが調査をする際の準備事項です。調査票は、質問の流れを考えて、回答型式を決め、質問を文章化するという一連の手順で作成します。調査票が概成したら準備調査です。準備調査で不備があれば修正を加えて準備は完了します。

 

【訪問調査でわかること】

新商品を開発しようとする場合に、市場の動向を無視して商品を開発しても自社に技術があるだけではヒット商品となることは難しいでしょう。開発前に、市場の需要や競合他社のシェアや現有商品に対するユーザーの不満などを把握しておく必要があります。訪問観察調査によって、調査対象の使用環境や商品に対する直接的な意見などの定性的な要素が分かります。また、訪問面接調査や訪問留め置き調査によって定量的なことも分かります。例えば、商品のシェア率、ブランドの認知率、商品の満足度、商品にかける平均的な費用などです。その他にも、競合他社の商品の数や割合なども具体的な数値として把握できます。また、同様の調査を継続して実施することによって特定の期間、例えば昨年と今年のユーザーの変化などを把握することも可能です。

 

【訪問調査のメリット】

訪問調査の最大のメリットは対象者の生活を実際に観察できることです。これによって精度の高い行動観察が可能になります。調査する際に対象者の自宅や職場まで出向くので、対象者の事前許可があれば、キッチンやリビングなどのプライベートゾーンを含めた観察が可能です。普段の生活環境を直接見ると、動線や生活のパターンまで考察の範囲を広げることができます。
対象者を直接観察することによって、本人も気付かない潜在的なニーズを発見することも可能です。同じように会話しながら意見を聞くことで正直な意見を無意識に隠してしまうことを排除することができます。また、実際に生活している場所で調査することによって、実生活の中でのニーズを見つけることができるのもメリットです。

 

【訪問調査のデメリット】

訪問調査の最大のデメリットは調査対象者の参加同意を得にくいことです。訪問調査は、通常3~4名の複数のスタッフで訪問せざるを得ません。インタビュー要員、調査記録要員、調査元などが参加するからです。海外の事業者の場合は通訳なども必要になります。多人数になることから、同意を得にくいのです。
訪問調査では調査員のスキルの高さが求められるのもデメリットです。調査員の仕事は、聞き取った内容を記録することだけではありません。短い訪問の間に、消費者の無意識のニーズまで把握する必要があるからです。また、訪問調査では他の調査と比較すると費用や時間がかかります。消費する時間や費用は調査員が訪問している間だけではありません。調査対象やスタッフ相互のスケジュール調整などにも労力が必要だからです。

 

【訪問調査を行う際の注意点】

訪問調査を行う際には、相手の立場になって調整する必要があります。訪問する調査員の人数を正確に伝えておくことは当然です。多人数による訪問では対象者に迷惑がられます。最大でも3~4名程度でしょう。相手が女性の一人暮らしのような場合は、男性スタッフだけでは嫌がられることもあります。女性スタッフを入れておくことも大切です。寝室やキッチンなどを見たい場合や、撮影をしたい場合は事前に許可を得ておく必要があります。当日現場で調整するようではトラブルの原因になります。また、同居家族がある場合には同居家族が訪問に同意しているか否かを確認しておくことも大切です。当日になって訪問中止になったのでは、事前に承諾を得た意味がありません。

 

【訪問調査の活用方法】

訪問調査をすることによって普段商品を使用するのと同じ生活環境の把握が可能です。その中で商品をどのように使用しているかが分かります。新商品の開発では、この生活者が普段どのように使用しているかについて細かく聞くことのできる訪問調査が効果的です。訪問調査によって、商品を使用している間だけではなく前後の時間における対象者の状況を把握することもできます。このことは、新たな発想や発見を得る上でも有効です。
通常の対話形式のインタビューではなかなか本音を聞き出すことはできません。訪問調査であれば、対象者の自宅でリラックスした状態なので、正直にありのままの本音を聞き出すことを期待できて効果的です。

 

【訪問調査は使用環境やユーザーの本音を把握して新たな発想や発見が可能】

定量的にユーザーニーズを把握するだけであれば訪問調査でなくてもインターネットなどを活用した調査でも把握することは可能です。訪問調査では、調査員が実際に調査対象の自宅や職場を訪問することで実際に使用されている環境や使用者の本音を把握することに価値があります。しかし、そのためには入念な準備と調査員のスキルが求められます。条件が整えば新たな発想や発見を得ることのできる有効な調査方法です。

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